セミナー

OOTR第8回年次学会サテライトセミナー (エーザイ株式会社共催)
エリック・ワイナー / イアン・クロップ (ハーバード大学) 講演会
"Late recurrence of ER+breast cancer: Unresolved clinical challenge" / "Novel approaches to HER2-positive metastatic breast cancer"
(2012年4月19日 東京ステーションコンファレンス, 東京)

Dr. Krop
Dr. Krop

OOTR 第8回年次学会サテライトセミナーは、予定人数の40名を大きく上回る70名の参加者がありました。

Ian Krop先生は、Pertuzumab、T-DM1、Neratinibといった現在開発中の抗HER2療法剤の臨床データを中心に、comprehensiveな現状と今後に関する講演をされました。また、このサブセットでの近い将来でのファーストラインからサードラインまでの流れを提示されました。

Eric Winer先生は、現在重要なトピックの一つである、ホルモン陽性乳がんの術後5年以降に発生する後期再発について、その問題点や対応、今後の試験のあり方などについて講演されました。

参加者からも多くの質問があり、両先生ともユーモアも交えながら真摯に回答されていたのが印象的でした。

Dr. Winer
Dr. Winer

講演いただいた両先生、ともに座長をしていただいた慶応大学 神野先生、また遠くは名古屋からも駆けつけていただいた参加者の先生・医療者のみなさま、大変ありがとうございました。 (京都大学 佐治重衡先生記)

OOTR後援 京都学術講演会
「がん抗体療法の基盤研究から臨床応用」

名古屋市立大学大学院特任教授 上田龍三 先生
(2010年11月9日 ホテルグランヴィア 京都)

がん抗体療法の基盤研究から臨床応用

OOTRは、2010年11月9日に開催されました「がんプロフェッショナル養成プラン」の「京都学術講演会」を後援しました。名古屋市立大学大学院特任教授 上田龍三先生の特別講演「がん抗体療法の基盤研究から臨床応用」の内容を紹介します:

成人T細胞白血病リンパ腫(ATLL)、脊髄症(HAM)

本年度、成人T細胞白血病リンパ腫(ATLL)、脊髄症(HAM)の原因ウイルスであるヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)の抗体検査を、公費で妊婦検診に追加されることが決定した。ATLL(以前はATLと呼称)は1977年に提唱された疾患で、1980年にはレトロウイルスによる感染であることが明らかになった。母から子への垂直感染も証明され、HTLV-1抗体陽性の母(キャリア)から子への授乳を禁止することで、頻度が低下している。HTLV-1感染キャリアは現在約110万人と推定されており、そのうち3-5%がATLを、0.3%がHAMを発症する(図3)。治療は化学療法が主体であるが、不応例が多い。若年ATLL患者へのミニ移植が有用との報告はあるが、高齢発症例が多く、EBMとして確立された治療法はない。

成人T細胞白血病リンパ腫(ATLL)では90%以上の腫瘍がケモカインレセプターの一種であるCCR4の発現が強陽性である。新規抗体を開発し、臨床試験で有効性を見出したので、トランスレーショナル・リサーチ(TR)の立場から紹介する(図4)。

図3
図3
図4
図4

1. ATLLとCCR4

CCR4はG蛋白質共役型7回膜貫通型蛋白で、染色体3pに存在する。リガンドにはCCL17(TARC)、CCL22(MDC)がある(図5)。正常T細胞には様々な機能があるが、ATLLの中にも正常な制御性T細胞(Treg)の機能を保持する腫瘍が存在する(図6)。CCR4抗体は正常の臓器とはほとんど交差反応を示さず、正常リンパ球のヘルパー2細胞(Th2)と制御性T細胞の分画にのみ反応する。

図5
図5
図6
図6

2. CCR4 からみた ATL の病態

乳癌は肺や骨に転移が多くみられるが、腎への転移は稀である。乳癌細胞に発現するCXCR4と、転移先のリガンドとなるケモカイン分子との相互作用が重要と思われる。ATLLで皮膚浸潤が認められる症例では、全てCCR4が陽性である。CCR4はTh2とTreg細胞分画に発現しているが、正常Treg細胞の表現型はCD4・CD25陽性で、ATLL細胞と共通である。Treg細胞に特異的な分子マーカーとして転写因子FoxP3 があるが、発現解析の結果では、mRNAレベル、タンパクレベルともに高発現しており、ATLLの発生母細胞がTreg細胞であることを示唆する。免疫不全状態を示すATLL症例においてTreg細胞の機能を保持している症例は約3分の1に認められた。これらは細胞増殖能、IFNγ産生能に抑制的に働いていた(図9)。

図9
図9

3. CCR4を発現しているATLLの臨床的意義

ATLLでも、末梢性T細胞リンパ腫・非特異型(PTCL-u)でも、CCR4陽性症例は陰性症例と比較して生存期間が有意に短い。愛知がんセンター研究所でのPTCL-u症例の解析でも遺伝子不安定性の強い群は予後不良で、CCR4の発現も高頻度である。

4. ATLLの治療薬としてのCCR4抗体

悪性腫瘍に対する抗体療法の作用機序は、1)腫瘍細胞に結合しアポトーシス誘導、2)補体と作用し腫瘍細胞を破壊、3)抗体を介しNK細胞やマクロファージを誘導し腫瘍細胞破壊(ADCC)などがあげられる。臨床効果の面からは特にADCC活性が抗腫瘍効果の誘導に重要である。ADCC活性は抗体のFc部分にある糖鎖のフコースを除去した抗体ではCHO細胞で産生した通常の抗体と比較して100倍から1000倍のADCC活性を示した。松島(現 東大・予防医学)らはCCR4遺伝子クローニングの結果を利用して、CCR4のN末端をエピトープとする抗体を旧協和発酵東京研究で作製に成功し、その後、フコース除去抗体、それら臨床使用を目的としてキメラの抗体、さらには、ヒト型CCR4抗体を作製して、臨床試験を開始した。患者検体からADCC活性を確認、in vitroで腫瘍細胞に対するNK細胞のADCC活性を証明した(世界初のデータ)。フコース除去抗体はADCC活性を著明に上昇させた。京都大学内山教室(現 高折教室)で樹立に成功したATL細胞株(S-YU)細胞をSCIDマウスに移植したところ、抗体だけでも腫瘍縮小効果が観察されたが、特にG-CSFを併用で腫瘍は完全に消失、治癒に至った。CCR4陽性PTCL-uでも再現性があり、本抗体が治療薬として使用できることが証明された。

5. 免疫治療モデルの作成

SCIDマウスの皮下にヒトの大腿骨を植え込み(SCID-huマウス)、そこにヒトの骨髄細胞を注入すると、ヒトの造血細胞が増殖・分化する。これは他のSCID-huマウスに継代できるが、胎児の骨を使用すると言う倫理的な問題があり、我々は最近日本で開発されたNOD/Shi-scid、IL-2Rγnull マウス(NOGマウス)を用いてATLLモデルの作出に成功した。NOGマウスは重度複合免疫不全マウスで、T/B細胞に加え、NK細胞、マクロファージ機能も著しく低下しており、患者由来の腫瘍細胞の生着やヒト細胞の分化や増殖が可能である。NOGマウスにヒト免疫担当細胞を移入することで、ヒトに類似した免疫環境を再現できる。Hodgkin病、急性リンパ芽球性リンパ腫(LBL)、ATLL患者の腫瘍細胞から同様の病態がNOGマウスに再現できた。腫瘍をCCR4抗体で治療したところ、ATLL細胞が消失し、患者のNK細胞が、自己のATLL細胞を投与した抗体のADCC活性で撲滅できたことを実証した。

6. 本邦初の癌に対する国内産の抗体治療

前臨床研究の成果に基づき、CCR4抗体が有用である検証を開始した。キメラタイプの抗体でなく、抗原決定基だけをマウス抗体で同定したアミノ酸配列を残し、残りの抗体成分は全部ヒト型のヒト化抗体にても、前臨床試験の結果が同様に再現でき、薬剤としての安定性、アカゲザルでの検証などを終え、治療薬として使用することにした。

6-1. 治療対象と治療スケジュールの決定

ヒトへの臨床第1相試験(Phase 1 trial)として、CCR4陽性のATLL又はPTCL-u患者で、化学療法で再発した症例を対象にした。静脈投与にて1週間毎4回、効果判定は最終投与後4週間以内。最初の薬剤投与量の決定は困難であるが、フコース除去抗体が100分の1と言う低濃度でも通常の抗体と同程度のADCC活性を有すること、CCR4陽性の正常Th2細胞やTreg細胞に対し影響のある量でないと有効性が期待できないことなどを考慮し、初回投与量は0.01mg/kgとした。副作用の有無を観察、徐々に増量、1mg/kgまで増量した。重篤な副作用や毒性の強い例は認めなかった。Phase 2 trialの推奨容量は1.0mg/kgとした。投与抗体に対する抗体も存在せず、反復投与が可能であることも示唆された。

6-2. Phase 1 trialの結果

症例1。68歳女性、化学療法が施行されるも再燃。末梢血中に約20%のATL細胞を検出。CCR4抗体0.01mg/kgを投与したところ、翌朝の末梢血でATL細胞が消失。1週間後に数%程度検出されるも、治療翌日以降には再び消失、完全寛解と判定。

症例2。60歳男性、強力に化学療法を施行するも皮膚浸潤や骨融解像を認めた。4回投与にて、3週間後には、皮膚浸潤、骨融解像ともに改善、変化なし(SD)と判定。1年後には皮膚浸潤と骨融解像が消失、完全寛解し、約3年間再発なし。

症例3。64歳女性、末梢にPTCL細胞出現、鼠頸部リンパ節腫大あり。1回治療後、末梢血中PTCL細胞も皮疹も消失し、鼠頸部リンパ節も触知なし(CT上は残存)。部分寛解(PR)と判定、全体の判定はPD。

登録された16例のうち判定時の奏効例は5例(31.3%)で、完全寛解例は2例、その後の増悪は認めていない(図26、27)。

2009年5月から化学療法不応性のATLLに1mg/kgの8回投与によるPhase 2 trialが開始され既に登録は終了した。評価可能な26症例中13例(50%)に有効性が認められ、その結果は本年度12月に開催される米国血液学会(ASH)での口演に採用された。

6-3. リバース・トランスレーショナルリサーチ(R-TR)の重要性

有効例と無効例で各々の原因、また著効例においては少量の抗体量で治療効果が持続する理由、皮疹例ではその原因、効果発現の所要時間の相違、作用機序などが重要な研究課題である。CCR4抗体が正常のTreg細胞へ与える影響も課題で、Reverse-TRが今後の至適治療計画を作製する上にも重要である。医薬品医療機器総合機構(PMDA)に希少薬剤として2011年春の承認申請を目途に準備中である。

図26
図26
図27
図27

7. 腫瘍免疫におけるCCR4の意義

ATLL細胞が正常Treg細胞と表現型が類似し、同じ機能を有するものもあることから、HTLV-1ウイルスがCCR4陽性のTreg 細胞に持続感染することがATL発症に関与すると考えられる。

B細胞性Hodgkinリンパ腫において、細胞株の培養上清にはTARCやMDCが豊富に含まれていることが判明した。Hodgkin細胞の周囲にある細胞を、CCR4抗体とFoxP3抗体で二重染色を行ったところ、ダブルポジティブのリンパ球が多数観察された。Treg細胞はHodgkin細胞を標的とするCTLに対して抑制的に働く。CCR4抗体を投与してTreg細胞を除去し、CTLが活動しやすい環境を準備できれば、新しい治療法開発が可能になる。特に抗原特異的免疫療法の領域での有用性が考えられる。

8. 腫瘍免疫療法におけるTreg細胞の制御

免疫療法を臨床でも有効にするには、癌ワクチンの改良、また、投与ワクチンを如何に病巣まで到達させるかの工夫が重要になる。病巣では癌に特異的で活性の強いCTL細胞を増やす工夫の必要があるが、腫瘍周囲にはTreg細胞も存在し、多く誘導されると、CTLの機能が抑制されて、ワクチンの効果が充分には期待できない。この点では、前述のCCR4抗体等による腫瘍微小環境からのTreg細胞の除去は期待される方法であろう。本年4月に米国FDAが前立腺がんんに対して自己樹状細胞ワクチン(Sipuleucel-T)を承認した事は、真の腫瘍免疫療法元年が来たと言える。

終わりに

TRにおいては、メカニズムの解明だけでなく患者にメリットとして還元されることが重要である。質の高い基礎研究者、洞察力の深い臨床研究者、それに志の高い企業との調和のとれた共同研究がなされてはじめてTRは進展し、治療開発に結び付くものであることをお伝えしたい。

アーロン チカノーバー教授(ノーベル化学賞受賞者)講演会
「タンパクの死 と 私たちの細胞の生存」(2007年11月9日 京都大学)

講演中のアーロン チカノーバー教授
講演中のアーロン チカノーバー教授

2007年11月9日、「タンパクの死と私たちの細胞の生存」という演題で、テクニオン・イスラエル工科大学教授・ラパポート医学研究所教授アーロン・チカノーバー教授の講演が行われました。臨床第一講堂には多くの学部生、大学院生、医師が聴講に訪れました。塩田浩平医学部長からチカノーバー教授の略歴紹介があり、戸井雅和乳腺外科教授の司会にて講演が始まりました。

講演はタンパクに関する研究の歴史からお話されました。かつて、タンパクは安定していて静的なものと考えられており、注目する人はあまりいませんでした。この研究領域の父とされる、Rudolf Schoenheimerは1930年代、アイソトープで標識したアミノ酸を用いて体内のタンパクの動態を調べました。これより15年遅れて、David Hogness、 Jacques Monodらは、哺乳動物細胞内のタンパク分子はdynamic stateにあることを示しました。1955年にChristian de Duveがライソソームを発見したことよりタンパク研究分野は大きく変化、細胞タンパクはライソソームによって分解されると考えられるようになりました。その後20年ほどこの領域の研究は滞っていましたが、1970年代半ば、Brian Pooleらは細胞内タンパクがライソソーム以外でも分解されることを示しました。これがユビキチンの発見につながったのです。1976年からチカノーバーらは新たなタンパク分解システムの研究を推し進めました。

ユビキチン分解システムは、細胞質でのタンパク分解がユビキチンによって修飾され、これにさらにユビキチンが結合し、この繰り返し反応により直鎖状に伸びたユビキチン分子が、選択的なタンパク分解の目印となる、というものです。チカノーバーらは、この一連の反応に関与するE1、E2、E3という3つの酵素を発見しました。

熱心にチカノーバー教授の話に耳を傾ける聴衆
熱心にチカノーバー教授の話に耳を傾ける聴衆

ユビキチン分解システムには、細胞周期関連因子、シグナル伝達因子、転写因子などを制御することで細胞増殖や分化に直接に関与するなど、様々な機能があることがわかってきました。したがって、ユビキチン分解システムの異常がもたらす異常タンパクの蓄積は、アルツハイマー病、パーキンソン病、Angelman症候群、Prader-Willi症候群など様々な病態をもたらすことが明らかにされています。さらに、癌の発生、増殖・進展に密接に関わり、治療耐性にも関与してきます。ユビキチン分解システムを標的にして、癌細胞内のプロテアソームの分解を阻害することにより異常タンパク質を蓄積させ、癌細胞を死滅させる抗癌剤も開発されました。Bortezomibはすでに認可されており、非ホジキンリンパ腫などによく奏功することが紹介されました。

最後に、チカノーバー教授は「from bench to bedside」を強調されました。チカノーバー教授は30年前までは一般外科医として活躍されていたそうです。病態の解明には時間がかかりますが、研究成果を研究室内にとどめるのではなく、世の中に還元することが大切だ、と講演をしめくくられました。 (京都大学 Dr.辻 和香子)

Aaron Ciechanover Technion-Israel Institute of Technology

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